『賃上げ』について

評論

今回は『賃上げ』について記述します。
毎年10月1日に各都道府県の最低賃金が改定されます。
東京都の場合ですと、2021年10月1日に1,041円、2022年10月1日に1,072円、2023年10月1日に1,113円と推移しています。上がると嬉しい気がしますが、単純に『賃上げ』イコール良いというわけではありません。
名目賃金より物価高が上回れば、実質賃金は下がるので意味がないです。賃上げしても消費の喚起にはなりません。また、扶養内で働いている方々は、年収の壁を超えると社会保険料を納めなくてはいけなくなるので、賃上げした分、勤務時間を減らすなどの調整をすることを考えます。
最低賃金が上がると、経営者は生産能力が高い労働者を選ぶようになります。企業にとっては、人件費の増加は固定費の増加です。賃上げから利益が生まれるわけではありません。売値を上げると商品が売れなくなってしまうので、人件費を節約して有能な社員に過酷労働させる、また、業務委託や非正規を増やすことが解決策になってしまいがちです。下請けへの取引価格を見直すことが呼びかけられていたり、中小企業が人件費を増やした分の15%を法人税から差し引く税制優遇があったりしますが、中小企業のうち6割は赤字企業で、そもそも法人税を納めていないので、賃上げが促進される効果は殆ど期待することができません。また、付加価値を生み出せる企業に労働力がシフトしていき、新陳代謝が起こることも予想されていますが、付加価値を生み出せる企業も業種が限られているため、シフトできない人が大量に発生します。労働者が給料交渉するべきという意見もありますが、交渉されたら経営者は、文句を言わない出稼ぎ外国人を雇用するかAIで代替することを考えます。
失業者が増えてしまうと、犯罪と自殺が増えます。会社が有能な人材を使い倒すと、イノベーションの機会を奪ってしまします。最低賃金が上がることにより負担が末端の労働者にいくこともあるのです。

国会議員の方々の感覚と庶民感覚が大きく異なっていることも問題です。労働者は租税と生活でギリギリです。企業は、お金ありきではない状態でリスクを背負って試行錯誤を繰返し、どうにか工夫して価値を生み出そうと日々努力をしています。国民は、税金をケチに使ってほしいし、飢え死にしそうな人が沢山いるのに、効果を説明できないものに税金を使ってほしくないと過敏になっています。賃上げしても社会保険料が上がったら意味がありません。社会保険料は租税の様に強制的に国に納めるお金です。賃上げです!と増えた数字を良い感じに発表しても、給与計算担当者は社会保険料を控除する時に意味がないことに気付いています。多くの労働者は、人生の時間の大部分を労働に捧げて、副業やリスキリングや恋愛などの余裕がなく、人生そのものがルーチンワーク化しています。実質賃金の低下と出生率の低下に相関関係があるといっても、実質賃金を上げれば子供が増えるということにはなりません。人口は毎年減り続け、高齢化率が増えていることもあって、現時点で世代間格差が課題になっており、今後の社会保障費の増加が確定しています。少子化対策と同時に少人数でやっていくことも並行して議論していくことも大切です。現役世代の負担が大きくなったら、現役世代への還元も高めていかないと、出生率の改善や子供への投資は二の次です。野党は消費税減税を訴えていますが、少子高齢化の中、安定税収は必ず確保しておきたい財務省は首を縦に振りません。
さて、ここで、財政出動(お金の量を増やすことや法人税をオマケすること)や金融緩和(お金を借りやすくすること)は、経済成長のための薬になるのでしょうか。もはや、そんなことでは刺激できない程、どうにもならない悪循環に落ち込んでいます。結局、成長する産業がないと豊かにはなりません。国が成長する企業を見極めて投資した時に、結果その企業が成長しなかったら国民はそのことに対してちゃんと意見を言っていかなくてはいけません。そして、国民1人1人がイノベーションを生み出す可能性を意識して余裕を持った生活をすることが大切です。
日銀はずっと物価上昇を目指してきましたが、現在のインフレは需要が供給を上回ったことによるものではなく、原材料費が高騰したことによるインフレです。昨今、円安の影響でトヨタ自動車は最高益です。円安は輸出企業が儲かるので海外に車を売るトヨタ自動車は利益を多く得ることができます。また、インバウンドが増えた影響で宿泊業や観光業に活気が出ました。しかし、日本は国内需要が8割です。GDPが増えたことを単純に楽観視してはいけません。

さて、いろいろ行き詰まって辿り着いた聞こえがいい提案が『賃上げ』ということだと思います。
国のせい、経営者のせいと言っていても仕方がないので、私たちは、生き方を工夫していかなくてはいけません。ちなみに私はミニマリストの傾向です。慣れるとモノに価値を感じなくなるし、自分にとって有意義な時間の使い方ができるようになってきます。経済成長すれば、いろんなことが解決しやすくなるので、何か新しい発想ができればと、未熟者なりに常に脳を動かしています。